海女には等級があります。サングン、チュングン、ハグン。序列のように聞こえますし、実際に序列でもありますが、実の中身は、どれだけ遠く、どれだけ深くまで行けるかの区分です。そして等級には、特権よりも責任のほうが多くついてきます。
海女は潜る深さ、息の長さ、採取の腕前によってサングン、チュングン、ハグンに分かれます。最も腕のいいサングンは最も深い海で働き、その日の作業の始まりと終わりを判断し、若い海女を導きます。チュングンは中間の深さを、ハグンは浅い海で経験を積みます。試験があるわけではなく、いっしょに働く海女たちのあいだで自然に定まり、年を重ねて息が短くなれば、浅い海へ戻っていきます。
ものさしは深さです。どれだけ深く行き、そこでどれだけ息が続き、何を採って上がってくるか。サングンはふつう10メートルより深い海で、2分近く息をこらえて大きなアワビやサザエを採ります。ハグンは5メートルほどの海で短い潜水をくり返します。チュングンはその中間です。村によってはサングンの上にテサングン(大上軍)を、ハグンの下に新入りのエギジャムスを置くところもあります。
正式な試験はありません。同じ海を分け合う海女たちは、互いの腕前を知っています。毎日見えるからです。誰がどこまで出ていくか、何を採ってくるか、危ない朝をどう判断するか。等級は誰かが授けるものではなく、共同体の中で認められていくものです。
| 等級 | 深さ | 主な獲物 | 役割 |
|---|---|---|---|
| サングン | 10mの先、遠い漁場 | 大きなアワビ、サザエ、ナマコ | 作業の開始と終了を判断し、教え、危険を見張る |
| チュングン | 5〜10m | サザエ、ウニ、アワビ | 採取の主力、サングンを支える |
| ハグン | 5m前後、岸の近く | ウニ、テングサ、ワカメ | 技を学び、浅い海で働く |
| ハルマン(年長) | 浅い海(ハルマンバダン) | サザエ、海藻 | 息のぶんだけ採り、経験を伝える |
第一の責任は判断です。今日は海に入れるか、いつ全員が上がるべきか、漁場のどちら側が危なくなっているか。それを読むのがサングンです。サングンが水から上がれば、みんなが続きます。良い場所に長居しすぎるハグンに声をかけるのも、サングンの仕事です。
第二の責任は教えることです。潮の読み方、岩の下のアワビの見つけ方、息が切れる前に海面へ向き直る呼吸の感覚。どれも本には書いてありません。サングンがやって見せ、ハグンがついてまねます。海仕事のあとに体を温めたプルトク(海辺の石垣の休み場)では、火にいちばん近い席がサングンの席で、いちばん多く話す席でもありました。
第三の責任は、共同体を代表することです。海女会では、禁採の日取り、漁場の手入れ、新しい組合員の審査といった大事な決定で、サングンの言葉が最も重く扱われます。
等級は村の外までは持ち出せません。別の村へ移ったサングンは、その海を知らないので、はじめからやり直します。どの岩にアワビが隠れ、どの水路が命取りになるかは海岸ごとに違い、その知識は村の海女会の中だけで受け継がれるからです。
サングンになるには、ふつう十年以上かかるといわれます。そしてどのサングンも、いつか息が短くなる日を迎え、年長者のための浅い海、ハルマンバダンへ戻っていきます。等級は上るだけの階段ではありません。海と体に合わせて、上りも下りもするのです。
海女は等級が許す深さで働き、そこから息のぶんだけを採ります。Sumbiの潜水も同じかたちで育ちます。10分から始めて、隣の人より深くではなく、きのうより少しだけ深く。Sumbiは、済州海女文化の記録と保存を応援しています。
Sumbiの海を見る →海仕事のあとにプルトクへ集まると、座る場所に順序がありました。火のそばの暖かい席はサングン、次にチュングン、外側にハグン。序列ではありますが、同時に学びの席次でもありました。ハグンはサングンの話を聞きながら、海を覚えていったのです。
深い海はサングンのもの、浅い海はハグンと年長者のもの。いちばん強い潜り手が浅瀬まで採ってしまえば、いちばん弱い人の取り分が残りません。等級は、海を分けるルールの役目も果たしています。ハルマンバダンは、その最もはっきりした表れです。
現役の高齢化が進むなかで、最も速く減っているのがサングンです。ひとりかふたり、あるいはゼロという村もあります。サングンがいなければ深い漁場は採られず、ハグンは学ぶ相手を失います。等級の仕組みが揺らぐことは、その下にある文化が揺らいでいる合図です。
海が教えてくれた一行。サングンとは、いちばん深く行ける人ではなく、いつ上がるべきかをいちばんよく知る人のことです。スマホの練習も同じで、時間どおりに浮上する人が、いちばん長く我慢する人より長く続きます。
この記事は公開資料をもとにまとめた文化紹介であり、数値は参考資料の調査時点のものです。